1. 再エネ特措法等の改正

電気事業法(昭和39年法律第170号)や電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号。以下「 再エネ特措法」という。)を改正する「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が、2020年5月26日に衆議院本会議で、同年6月5日に参議院本会議で可決されて原案どおり成立し、同月12日に令和2年法律第49号(以下「 改正法」という。)として公布されました(なお、再エネ特措法の題名は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」に変更されます。)。

改正法は、既に2020年3月10日付けの Renewable Alert Letter 44でご案内したとおり、再生可能エネルギー発電事業に関し、(1) FIP制度の導入、(2) 解体等費用の積立制度の導入、(3) 認定有効期限の導入を含んでおり、いずれも、事業性に影響を与える重大な改正です。改正法は2022年4月1日に全面施行されますが、改正法は制度の大枠を定めるにとどまり、その詳細についてはいまだ定まっていない部分も多く、特に(3)のようなインパクトの大きな改正についてのこのような不確定性は、将来を見据えて事業に取り組む事業者を既に悩ませ始めており、弊所にも多くの相談を頂いていることから、今回はこの(3)に焦点を絞ってご案内します。

2. 「有効期限」の導入とその議論の現状

改正法は、再エネ特措法14条を以下のとおり改正し、認定後一定期間内に運転開始に至らない場合、認定が当然に失効することとしています(新再エネ特措法14条2号)。これは、FIT(FIP)認定にいわば「有効期限」を設けるものとはいえ、超過した分だけ調達期間が短縮される現行の運転開始期限に比べ、いっそうインパクトの大きいものです。

現行再エネ特措法14条

第9条第3項の認定(...〔略〕...)は、認定事業者が認定計画に係る再生可能エネルギー発電事業を廃止したときは、その効力を失う。

新再エネ特措法14条

認定事業者が次の各号のいずれかに該当するときは、第9条第4項の認定(...〔略〕...)は、その効力を失う。
一 認定計画に係る再生可能エネルギー発電事業を廃止したとき。
二 第9条第4項の認定を受けた日から起算して再生可能エネルギー発電設備の区分等ごとに経済産業省令で定める期間内に認定計画に係る再生可能エネルギー発電事業を開始しなかったとき。

経済産業省の有識者会議である再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下「 主力化小委」という。)では、2019年11月18日の第4回会合において、認定から長期間を経ても運転開始に至らない電源のために系統連系枠が確保されることで、系統の有効活用が阻害されているとの認識が示された上で、諸外国の制度の例として、一定期間を経過した場合に、認定を失効させる制度や、超過した期間の2倍の期間を調達期間から差し引く制度などが紹介されました。主力化小委での議論をまとめた2020年2月25日に公表された中間取りまとめ(こちらをご参照)では、「認定取得後長期にわたり運転が開始されない場合」には、「①認定を失効させる、②調達期間を短縮させ、調達期間が終了したものは失効と同様に扱う」などの法的措置を講じるべきとされており(21ページ)、新再エネ特措法14条2号は上記①の具体化と思われます。

認定が失効する具体的な期間は、発電設備の区分等(発電種別や容量)に応じて経済産業省令で定めることとされているにとどまり、改正法自体には定められていません。今後、再エネ特措法施行規則の改正により定められると予測され、同改正に際してはパブリックコメント手続が実施されると考えられますが、それまでの間に、経済産業省ないしその有識者会議における議論によって実質的に方向性が決定されると思われるため、その議論の趨勢に注意する必要があります。しかしながら、コロナウイルスの感染拡大に伴い、これまで一定の頻度により公開で行われてきた経済産業省の各種有識者会議の多くが開催されない状態となっており、現状、上記の点に関する方向性は不明のままです。

また、主力化小委の中間取りまとめでは、「既に認定を受けている案件」についても、「措置が講じられた日を起算点として未稼働状態が一定期間継続する場合」には、「リードタイムの長い電源に配慮しつつ、新規認定と同様の対応を取るべき」とされています(21ページ)。既存案件について、2022年4月1日以降一定期間内に運転開始に至らない場合には同様に認定が失効することが示唆されているようにも思われますが、その詳細はやはり不明です。

3. 今後の対応

事業者は、責任をもって事業を行うためにも、数年先を見据えて地元との調整、金融機関からの融資、発電所の建設及び運営に関する各種契約等についての計画を立てつつ開発に当たりますが、上記のようなインパクトの大きな新制度について具体的な内容が全く見えない状況では、その事業遂行は困難となりかねません。ことにコロナウイルスの感染拡大に伴う工事の遅延等が見られる昨今では、制度の方向性が見えないことに伴う悪影響はいっそう大きく、2018年12月7日付けのRenewable Alert Letter 38などでご案内したいわゆる新ルールの導入を超える混乱すら予想されます。既にこうした不確実性に対する懸念を表明する金融機関も現れており、このような先行き不透明な状況が長引けば、開発の中止・断念を余儀なくされる案件や事業者が出てくることは必至で、再生可能エネルギー市場全体が萎縮するおそれがあります。国は、制度詳細に関する議論の方向性やスケジュールの大枠すら明らかにできていませんが、民間投資を活用した再生可能エネルギーの主力電源化を基本的な政策目標に掲げるのであれば、事態を重く受け止め、早急に市場の意見を聴取しつつ制度の詳細を示す必要があります。

様々な不確定要因がある中、事業者には、何が決まっており何が決まっていないのかも含めて、各種改正の内容を正確に把握するとともに、国に対して、事業者の置かれた実態を認識した上で適切な措置を早急に講じるよう、その声を効果的に届けていくことが求められています。

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