1. 洋上新法第1号案件の公募に向けて

(1) 再エネ海域利用法の施行

Renewable Alert Letter 40でご紹介したとおり、2018年12月7日、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号。以下「 再エネ海域利用法」という。)が公布され、2019年4月1日に施行されました。再エネ海域利用法は、他の海洋諸施策との調和の中で再エネ発電のための一般海域の利用を促進することを目的とする法律であり、日本における洋上風力の推進を後押しすることが期待されています。

再エネ海域利用法では、経済産業大臣及び国土交通大臣が、再エネ発電を促進する「促進区域」を指定し、同促進区域において発電事業を行う事業者を公募により選定し、この選定された事業者がFIT認定及び海域占用許可を取得することとされています。国は、促進区域を指定した後、各促進区域ごとに調達価格の決定方法(再エネ海域利用法13条2項8号)や応募事業者の評価基準(同項15号)などを示す公募占用指針を定め(同条1項)、これに従い、事業者から提出された公募占用計画を評価し(15条2項)、最も適切な公募占用計画を提出した事業者を選定します(同条3項)。

2019年7月に「有望な区域」として4区域が発表され、2019年12月27日、そのうちの1つである長崎県五島市沖が促進区域に指定されました。2020年4月17日には、同促進区域における公募の方法を定める公募占用指針の案(以下「 指針案」という。)が公表され、同年5月16日までのパブリックコメントに付されています(こちらを参照)。公募占用指針の在り方については、2019年6月11日公表の「一般海域における占用公募制度の運用指針」(以下「 運用指針」という。)において一定の方針が示されていたところですが、指針案は、再エネ海域利用法下での初の案件についての初の公募占用指針となるものであるため、大きな注目が集まっています。

(2) 指針案の概要

1. 公募の基本的条件

公募占用指針では、案件ごとに、再エネ海域利用法13条2項各号の事項が定められます。このうち、公募対象とする発電設備の区分等、出力、公募参加者の資格に関する基準、調達価格の決定方法や調達期間等については、調達価格等算定委員会の意見を尊重して定められることとされています(同条4項)。

指針案は、2020年2月4日の第55回調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、浮体式洋上風力について公募すること、最大受電電力は2.1万kWを限度としつつ、発電設備の出力は1.68万kWを下限とすること、調達価格は36円/kWhとすることとしています(指針案6、7頁)。また、公募参加の資格として、国内法人であること、国内外を問わず海洋土木工事の実績があること、プロジェクトファイナンスの実績がある融資金融機関による関心表明書(LOI)等が提出されていることなどを挙げています(指針案14、70、71頁)。

2. 評価基準

再エネ海域利用法は、都道府県知事及び学識経験者の意見を聴いて(13条5項)、事業者を選定する評価の基準を公募占用指針に定めることとしています(同条2項15号)。指針案では、合同会議において、経産省及び国交省から示された考え方についてされた議論を踏まえ、以下のような評価基準を示しており(指針案40頁以下)、概ね運用指針において示されていた方向性とも合致しています。

評価は、価格及び事業実現性のそれぞれの観点から各120点満点として合計240点されますが、五島市沖促進区域については、価格は一律36円/kWhとされるため、応募する全ての事業者に120点が付され、事業実現性の観点のみで評価が競われることとなります。事業実現性は、事業の実施能力の面(80点)と地域との調整・地域経済等への波及効果の面(40点)から評価されることとされており、前者のうち「実績」が30点を占めることとされています。この実績の評価は、事業の管理を行う事業実施企業(SPCの構成企業など)だけでなく、EPC等実施企業も含めた全体についてされることとされています。また、日本国内では洋上風力の実績そのものが乏しいところ、実績の評価は、①風車の設置、②海洋土木工事、③風力発電事業の運営の実績から評価することとされ、その際には、日本の自然・社会的状況等を踏まえた事業の実績であるかどうかも考慮して判断するなどとされています。

3. 事業権利の譲渡

再エネ海域利用法では、計画の変更には、公共の利益の一層の増進に寄与するものと見込まれること又はやむを得ない事由があることが必要とされています(18条2項2号)。事業を行うコンソーシアムないしSPCの構成員の変更についても、同規定の規律の下で、上記評価の実効性の維持と投下資本回収機会の確保による発電コストの低減とのバランスを取った要件の設定が検討されました。その結果、指針案では、①議決権が最も大きい企業の変更、②事業実施企業が脱退する変更、③議決権の譲渡により評価対象となった事業者の議決権保有割合が一定規模を下回る変更(運転開始前は3分の2未満、運転開始後は2分の1以下)などの事業への影響が大きいと考えられる場合には慎重な審査が必要とされる一方、その他の場合には原則的に許可することとされています(指針案51、52頁)。

4. 国による情報提供

国は、公募に当たって一定の情報を提供することとしています。具体的には、発電事業に使用するための港湾やその使用料の情報が提供されているほか、2020年4月22日からは、公募参加資格を有する企業からの申請に応じて工事費負担金の額等の系統情報を提供する開示申請の受付けが開始されています(こちらを参照)。

(3) 今後の展望

洋上風力発電の世界全体の導入量は、2008年に1.5GWであったところ、2018年は23.1GWにも達しており 1、今後も、2030年に228GW、2050年には1,000GWとなるとも予測されています 2

日本でも、こうした世界的潮流を受けて、新たに再エネ海域利用法が制定され、いよいよ同法の下での第1号案件の公募が始まろうとしています。このこと自体は、国内外から歓迎されているものの、初期段階であることに伴う課題も多いのが実情です。例えば、現在の運用では、海域調査の結果や連系枠についてはいずれも事業者からの提供を前提としています。洋上風力の開発を進める事業者は、自らが落札できるとは限らない状況の下で、多額の投資をした海域調査の結果を無償で提供し、かつ、市場趨勢と必ずしも合致しないと思われる価格で連系枠を供出することを承諾せざるを得ない運用となっており、かかる運用下でいかに公平かつ合理的な方法で、先行投資をした初期参入の事業者を保護しつつ、今後の参入も促していくのかについては未だ不透明であると言わざるを得ません。

公募という性質上、一旦公募の内容が決定してしまうと、事業者としては、その内容を応諾の上で応募するか、応募しないかの2択を迫られることになります。指針案は、再エネ海域利用法に基づく今後の公募の基礎となるものです。洋上風力を視野に入れていらっしゃる事業者におかれましては、今回の公募に応募するか否かを問わず、内容を精査し、適切な公募及び運用となるよう意見提出等を行っていくことが必須と考えます。

2. 英国オフィス洋上チームご紹介

弊所では、業界を牽引する洋上風力のスペシャリストである Evan Stergoulis Simon Alsey Ravinder Sandhu Simon Folleyの4名のチームがロンドン・オフィスに加わりました。

上記チームでは、着床式・浮体式を問わず、米国、欧州、アジアにおいて、洋上風力の案件開発やM&A、融資実行などに際して、業界の先端を行く事業者やレンダー、投資家の皆様をサポート致します。

上記チームのメンバーは、直近でも、台湾最大の洋上風力プロジェクトファイナンスであるチャンファン・シーダオの30億米ドル規模のファイナンスや、ウォルニー・エクステンション洋上風力発電所の権利の50%に相当する13億英ポンド規模のボンドの取得、レースバンク洋上風力発電所の送電設備の4億7200万英ポンド規模の売却に関し、アドバイスを提供しました。また、米国、欧州及びアジアにおいて、この10年間で30を超える洋上風力案件に携わり、これまで、Ørsted、Equinor、Iberdrola、 Innogy、BlackRock、Copenhagen Infrastructure Partners、Macquarie、Northland Power、PKA、SSEのほか、数多くの金融機関にもアドバイスを提供しております。加えて、上記チームは、多くの「業界初」に携わっており、たとえば、①初の洋上風力の持株会社ファイナンス(HoldCo financing)、②洋上風力発電所のための初の格付け付き債券の発行、③初の浮体式洋上風力のプロジェクトファイナンスの試みなどが挙げられます。

上記チームが加わることにより、世界各国における弊所の再生可能エネルギーにおける実績は一層高まります。弊所は、今後さらに、日本をはじめ各国での洋上風力案件に注力してまいります。

Footnotes

1. REN21, Renewables 2019 Global Status Report, p. 123 Figure 37.

2. IRENA, Future of Wind, p. 43 Figure 19.

Originally published May.13.2020

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