相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について

(執筆者) 吉村龍吾/高賢一/坂根賢

1.改訂の経緯

平成29年3月31日に経済産業省により「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」(以下「CGSガイドライン」といいます。)が策定されました。CGSガイドラインは、平成27年に策定されたコーポレートガバナンス・コードにより示された実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を企業が実践するに当たって考えるべき内容をコーポレートガバナンス・コードと整合性を保ちつつ示すことでこれを補完するとともに、「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめたものです。CGSガイドラインは、企業に取組みの検討を求める事項を数多く提示していますが、その中でも、相談役・顧問の在り方については、以下の6つの提言を行っています。

① まず社内において、退任した社長・CEO 経験者を自社の相談役・顧問とするかどうかを検討する際に、具体的にどういった役割を期待しているかを明確にすることを検討すべきである。

② その上で、当該役割に見合った処遇(報酬等)を設定することを検討すべきである。

③ 以上の検討に際して、法定または任意の指名委員会・報酬委員会を活用するなど社外者の関与を得ることを検討すべきである。

④ 社長・CEO経験者を相談役・顧問として会社に置く場合には、自主的に、社長・CEO経験者で相談役・顧問に就任している者の人数、役割、処遇等について外部に情報発信することは意義がある。産業界がこうした取組を積極的に行うことが期待される。

⑤ 相談役・顧問として報酬を得ることを前提に、現役時代の社長・CEO の報酬が低く設定されており、報酬の後払いとなっている会社においては、現役の経営陣に対する報酬をインセンティブ報酬の導入などによる報酬の引き上げと、相談役・顧問の位置付けや報酬の見直しを組み合わせて行うことで、全体として適正化を図ることも考えられる。

⑥ 会社における相談役・顧問制度の検討の結果、相談役・顧問として会社に残らないこととなった元社長・CEO 経験者については、積極的に他社の社外取締役に就任して、その長年の経営で培った経営の知見を活用することが、社会への貢献という観点から期待される。

また、平成29年6月9日に閣議決定された「未来投資戦略2017」においても、「コーポレート・ガバナンスに関する透明性向上の観点から、退任した社長・CEOが就任する相談役、顧問等について、氏名、役職・地位、業務内容等を開示する制度を株式会社東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施する」との方針が示されておりました。

かかる一連の取組みを踏まえ、平成29年8月2日、株式会社東京証券取引所は、相談役・顧問等の開示に関して、有価証券上場規程施行規則で定めるコーポレート・ガバナンスに関する事項について記載した報告書(以下「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」といいます。)の記載要領(以下「報告書記載要領」といいます。)を一部改訂(以下「本改訂」といいます。)することを公表いたしました。

2. 改訂内容

(1) 概要

上場会社は、各社のコーポレート・ガバナンスの状況を投資者により明確に伝える手段として、コーポレート・ガバナンスに関する報告書の開示を行うことを義務付けられています。

本改訂によって、コーポレート・ガバナンスに関する報告書に記載する事項として、「Ⅱ経営上の意思決定、執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナンス体制の状況」「 1機関構成・組織運営等に係る事項」の中で、「(8)代表取締役社長等を退任した者の状況」という項目が新設されます。

本改訂後の報告書記載要領によれば、同項目においては、代表取締役社長等であった者1が、取締役など会社法上の役員の地位を退いた後、引き続き相談役や顧問など何らかの役職に就任している、又は、何らか会社と関係する地位にある場合には、下記(2)で述べる一定の事項を記載することが考えられるとされています。

本改訂後の報告書記載要領では、「代表取締役社長等を退任した者の会社との関係について説明する場合は、作成画面において「記載する」を選択し、その内容を記載してください」とされており、「説明する場合は」という文言からすれば、コーポレート・ガバナンスに関する報告書における当該事項についての説明は、上場会社の義務ではなく任意であると考えらます。もっとも、報告書記載要領が想定する上記の場合において、記載しないことを選択した場合には、コーポレート・ガバナンスの透明性や開示に対する姿勢について、投資家等からネガティブな評価を受ける可能性がある点には留意が必要です。

(2) 記載事項

本改訂後の報告書記載要領によれば、同項目においては、それぞれの者ごとに以下の事項を記載するとともに、合計人数を記載することが考えられるとされています。

  • 氏名
  • 役職・地位
  • 業務内容2
  • 勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬 3の有無等)
  • 代表取締役社長等の退任日
  • 相談役・顧問等としての任期 4

また、本改訂後の報告書記載要領によれば、「その他の事項」の欄においては、以下の事項などについて記載することが考えられるとされています。

  • 相談役・顧問などの存廃に係る状況(「すでに廃止済み」、「制度はあるが現在は対象者がいない」など)
  • 相談役・顧問等に関する社内規程の制定改廃や任命に際しての、取締役会や指名・報酬委員会の関与の有無
  • 相談役・顧問等の報酬総額

(3) 適用開始日

本改訂後のコーポレート・ガバナンスに関する報告書の様式は、2018 年1 月1 日以後に提出する同報告書から用いることになります。具体的には、2018 年1 月1 日以後に開催される最初の定時株主総会後にコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出を行う際(又は2018 年1 月1 日以後、既に提出しているコーポレート・ガバナンスに関する報告書を更新すべき記載事項の変更があり、当該変更を反映したコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出を行う際)から、本改訂後のコーポレート・ガバナンスに関する報告書の様式を用いることになります。

なお、2018 年1 月1 日時点で相談役・顧問等が存在する上場会社に対して、本改訂に係る記載事項の追加のみを理由として、2018 年1 月1 日以後に本改訂後の様式によるコーポレート・ガバナンスに関する報告書の提出を義務付けるものではありません。

コンタクト

Footnotes

1 元代表取締役社長の他、元CEO(最高経営責任者)及び元代表執行役社長も含まれるとされています。

2 社内で経営に関わっている場合には、その内容について記載し、社外活動(公職等)に会社を代表して参加している場合には、その内容も記載することが考えられるとされています。具体的な社内での業務内容及び会社を代表しての社外活動がない場合(単に役職名の肩書の使用が許諾されているような場合)には、「業務内容」や「勤務形態・条件」の欄には、業務内容及び勤務実態が無い旨の説明を記載することが考えられるとされています。

3 報酬については、給与、顧問料等費目の名称は問わないとされています。

4 任期の定めが無い場合には、その旨を記載することが考えられるとされています。  

Because of the generality of this update, the information provided herein may not be applicable in all situations and should not be acted upon without specific legal advice based on particular situations.

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