日本企業が海外の企業に投資するにあたり、まず確認しなければならないのは各国における外資による投資規制です。規制対象となる投資や必要となる手続は国によって様々であり、また、近年の先進国を中心とした安全保障の観点からの外資規制の強化により、対象範囲の拡大や手続の変更等が行われております。このような状況のもと、海外への投資を行う、またはこれから行おうとする日本企業においては、常に各国の外資規制についてアップデートし、その制度を正確に理解しておくことが必要です。本稿では、近年大きな制度変更が行われた、米国および英国における投資規制について2回に分けて取り上げ、これらの国へ投資を行う日本企業が知っておくべき要点についてQ&A形式で解説していきます。

 今回の後編では、米国および英国の制度において、当局に届出を行う場合の手続・審査について解説し、最後に当該外資規制を踏まえた、取引に関する実務上の対策について解説いたします(以下は、前回からの続きとして、日本企業が海外進出の一環として米国および英国の対象会社に投資を行う場面を想定して、Q&Aを作成しております。米国および英国における当局の審査対象範囲および届出の要否に関するQ&Aについては、前回の「前編:規制範囲」をご覧ください。)。

【届出に係る手続】

Q5. 前回のご説明を踏まえると、当社が行おうとしている米国および英国の対象会社に対する投資は、米国および英国において当局の審査対象となり、当局への届出が必要になり得ることが分かりました。当局に届出を行う場合、具体的にどのような手続となるか教えてください。


(a) 米国の場合

 CFIUSへの届出は、通常、取引の当事者が共同して行いますが、その方法としては、以下のとおり、正式な審査を求める手続である「通知(notice)」と簡易の手続である「申告(declaration)」の2種類の方法があります。取引の当事者は、届出義務の有無にかかわらず、いずれの方法を採ることも可能です。なお、通知の場合にのみ届出手数料を支払う必要があります。

「通知(Notice)」:CFIUSに対し正式な審査を求める手続であり、通知には、取引に関する情報、投資者に関する情報、投資する米国事業に関する情報等についての詳細な記載が求められます。通知に対する審査のプロセスは、通知がCFIUSに受理(accept)された後、順に、(a)一次的な「審査(national security review)」(通知が受理された日から 45日間)、(b)一次審査の段階で国家安全保障上の懸念が払拭されない場合に実施される二次的な「調査(national security investigation)」(調査の開始日から 45日間を原則とするが、特別な状況がある場合には 15日間の延長が可能)(以下、本稿ではそれぞれ「一次審査」および「二次審査」と表記します。)、および(c)CFIUSによる審査の結果、取引が大統領に報告された場合に行われる大統領による決定( 15日以内)の流れで実施されます。なお、正式な通知の提出前に通知のドラフトをCFIUSに提出し、内容のチェックを受けることが一般的です。ドラフトには必要に応じてコメントが付され、当事者はそれに対応した上で正式な通知を提出することになります。

一次審査の段階で国家安全保障上のリスクがないと判断されれば、その時点で審査は終了(すなわち、取引を承認)しますが、当該リスクに関する懸念が払拭されない場合等については、二次審査へ進むこととなります。CFIUSは国家安全保障上のリスクがない場合に加え、一定の措置を講ずることで当該リスクを軽減できる場合には、当該措置(以下「リスク軽減措置」といいます。)を講ずることを条件として、取引を承認することができます。他方で、CFIUSは審査の結果、国家安全保障上のリスクが懸念される等、大統領の判断を仰ぐ必要がある場合、これを大統領に報告します。大統領は、当該報告を受けて、取引の中止等の命令を出すか否かを決定します。

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