(執筆者) 雨宮 慶

1. はじめに

2017は独占禁止法(以下、「独禁法」といいます)が施行されて70年ということもあり、いろいろと大きな動きがありました。その総括のために、本年の独禁法の動きを簡潔にご紹介するとともに、来年の展望として2018年にどのようなことが起こるのかを検討します。

また、特に重要なものについては、進捗に応じ、改めてさらにご紹介する予定です。

2. 独占禁止法研究会報告書と裁量型課徴金

公正取引委員会(以下、「公取委」といいます)は、2017年4月25日に「独占禁止法研究会報告書」(以下、「独禁研報告書」といいます)を公表しました。独禁研報告書の柱は、不当な取引制限と呼ばれるカルテルや入札談合などに関する裁量型課徴金という制度の導入と、その前提として課徴金額の大幅な増額を提案することです。

裁量型課徴金とは、公取委の調査の過程で被疑事業者が協力した度合いに応じて、課徴金の金額が変動するという制度です。具体的には事業者が公取委に提供した証拠の価値に応じて課徴金を減額したり、調査を妨害した場合には増額したりします。公取委の判断によって金額が変動するため、「裁量型」と呼ばれます。

課徴金の計算式は、課徴金制度が設けられた1977年から一貫して法律上固定されていて、40年間変更されていません(算定率は幾度か変更されています)。公取委の裁量で課徴金額が変動する制度が導入されれば、課徴金制度の歴史上初めてということになります。

そして、裁量型課徴金の「アメ」を機能させるため、独禁研報告書は、同時に基本となる課徴金額を増額して「ムチ」を厳しくすることを提案しています。現行法の下では、原則として対象商品の売上高の10%を最大3年分賦課されるのに対し、期間を最大10年にするほか、場合によっては10%の算定率を増額変更します。

2018年の通常国会に、独禁研報告書に基づいて作成された独禁法改正法案が提出される見込みです。報道によれば、現在公取委と自民党が法案の原案について協議を行っているということです 1

裁量型課徴金をめぐる問題点に関し、週刊エコノミスト2017年9月26日号のエコノミスト・リポート「課徴金強化狙う公取委 裁量型に不信募らす企業」に拙稿が掲載されておりますので、合わせてご参照下さい。

3. ビッグデータの取扱い(データ報告書)

公取委とそれに付属するシンクタンクである競争政策研究センター(CPRC)は、2017年年6月6日に「データと競争政策に関する検討会報告書」(以下、「データ報告書」といいます)を公表しました。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の普及・高度化を背景とした「第4次産業革命」において、ビッグデータ(BD)及びその解析で得られる知見が大きな経済的価値を持つ時代に、独禁法を適用する枠組みを示した報告書です。

主に①関連市場、②データの収集、③収集されたデータへのアクセスという三つの側面について、分析手法や問題となりうる行為を以下のとおり指摘しています。

①の関連市場に関して、データの移動コストの低さと、データを欲する企業の所在地からすれば、BDの取引について国境を越えた市場(例えば世界市場)が成立する可能性が高いとしています。

To view full article please click http://www.mofo.jp/20171212AntitrustNewsletter.pdf here.

Footnote

1 例えば時事ドットコム2017年11月20日https://www.jiji.com/jc/article?k=2017112000934など  

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